王子様はパートタイム使い魔


 リディは笑みを浮かべてツヴァイの頭を撫でた。

「そうだったの。期待してるわ。頑張ってね」

 リディの笑顔にツヴァイは一気に浮上した。完全に嫌われているわけではなかった。まだ挽回の余地はある。そういう意味では、あの町長の息子ラルフより数歩先んじているではないか。
 すっかり気をよくしてツヴァイは配達袋を背負わせてもらいながらリディに提案する。

「おい。今度あいつが来たらオレを人間に戻せ」
「なんで?」
「オレの方がいい男だからな。勝手に敗北しておまえに近付かなくなる」
「なるほどね」

 背後にリディの納得する声を聞いてツヴァイは益々上機嫌になった。しかし背中の袋をポンと叩かれて振り返ると、リディは苦笑を浮かべている。

「いい考えだけど、無理ね。あらかじめ来るときがわかってるわけじゃないし、彼の目の前であなたを人間に戻すわけにいかないでしょ?」
「……確かに」

 目の前で猫が人間になったら、いくらいい男でもただの化け猫だ。追い払うどころか反対に庇護欲をかきたてて、益々リディにべったりになる可能性がある。ツヴァイはがっくりとうなだれて、テーブルから飛び降りた。

「じゃあ、行ってくる」
「いってらっしゃい」

 リディの声を背中に、ツヴァイは店から駆け出していった。



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