王子様はパートタイム使い魔


 ベッカーの薬草畑には、畑を荒らす小動物用に罠が仕掛けてある。そのひとつに猫がかかっていたらしい。無印なので城下町にある魔女組合に通信符で知らせたところ、リディから申請が出ていることを知り、リディとは顔なじみだからということで、直接届けにきたということだ。

「城下でちょっとした黒猫騒動があったらしいぜ。たぶんこいつのしわざだろう」

 そう言ってベッカーは黒猫の頭をわしわしと撫でる。猫は不愉快そうに首をすくめた。そんな騒動を起こしたにしては、随分とおとなしい。その表情はまるで人の言葉がわかっていて、ふてくされているようにも見えた。

 この子はきっと優秀な使い魔になる。そんな予感がしてリディは微笑みながら猫の頭を撫でた。猫は相変わらず不愉快そうだけど。
 先の見えない不安はなくなったけど、黒猫が使い魔として使えるようになるまではもう少し時間がかかる。ベッカーには礼を述べて、店を再開したら知らせることを約束した。

 ベッカーを見送って店に戻ったリディは、黒猫を抱えたまま戸締まりを確認する。契約前に逃げ出してしまっては元も子もない。窓も扉もしっかりと閉まっていることを確認して、猫を両手で持ち上げ目線を合わせた。耳を伏せて目を細め、不機嫌を露わにした黒猫の冷ややかな瞳と見つめ合う。

「今日からよろしくね」

 にっこりと微笑むリディから、黒猫はついっと顔を背ける。暴れはしないものの、よほど人に捕まったことが気に入らないらしい。
 猫のこういう素っ気なさは、初対面の人に対しては当たり前なので、リディは全く気にしていない。平然と黒猫に話しかけた。

「契約の前に名前をつけなくちゃね。あなた、男の子? 女の子?」

 そう言って猫を抱え上げて股間を見つめる。途端に黒猫が暴れ始めた。

「ちょっ……! どうしたの?」

 暴れる猫の後ろ足の間を見つめてリディは首を傾げる。

「あれ?」


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