意地悪な両思い

 打ち合わせが終わって会社に戻ると、12時を回っていた。

これから遅めの昼休憩。
長嶋さんに長くなってごめんなって謝られた。
同行お願いしたのは私なのにね。

今日もこの間同行した、おっかないもじゃもじゃさんとの打ち合わせだった。気難しいお相手さんだから、長嶋さんのトークスキルとか今後のために勉強したくて。

「市田、ありがとな。」

「はい。」
 私は鞄を席に置く。そのまま給湯室に向かった。コーヒー欲しいなと思って。お昼は会社に戻る途中、コンビニで買った。

給湯室には誰もいなかった。
当然か、みんなお昼終わってこれから仕事に戻るところなんだから。

と、
「お疲れ様です」
 ふいに私の背に誰かが声をかける。コーヒーポットを置きながら振り返ると

「あ、お疲れ様です。」
 そこには、一色さんの姿があった。


「この間はありがとうございました。」

「こちらこそありがとう。
つい飲みすぎちゃって、見苦しいところ見せちゃったね。」

「そんなことないですよ、一緒にお食事出来て嬉しかったです。」

「私も。」
 市田さんは優しいね、そう言ってにこりと微笑む彼女は今日も綺麗だった。


「あれ?市田さんこれからお昼?」

「あ、そうなんです。
さっきまで長嶋さんの打ち合わせに同行させて頂いてて。」

「そっか。大変だね」

「一色さんもですか?」

「あ、ううん。私は速水待ってるの。」

「そう…ですか。」
 コーヒーを注ぎながら返事する。

なんでだろう。飲み会の時は全然平気だったのに。
こうして二人きりの時に、彼女の口から「速水」って言葉を聞くと少し動揺しちゃうのは。


「あいつ今営業でてて。
戻ってこないと仕事になんなくてさ。」

「大変ですね。」
 私は無難に答える。自分だけ飲むのもなんだから、一色さんにもコーヒーを差し出すことにした。

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