【完】君しか見えない
「楓くん……?」
楓くんの体がすぐそこにあり、甘い香りが鼻をかすめる。
私より20センチほども大きいのに、今はすごく小さく感じて。
「どうしたの……?」
「……十羽」
うわ言のように、楓くんが私の名前をつぶやく。
掠れたその声が弱々しくて、まるで私の名前に縋りつくような響きで。
どうして……?
どうして、そんなにも切ない声で私の名前を呼ぶの……?
「楓く──」
思わずその背中に手を回そうとした、その時。