キス税を払う?それともキスする?

第5話 陰性

 今朝テレビをつけるとキス病について取り上げられていた。

 調べ始めると何処までも追求する南田は、奥村と契約を結ぼうとしてからキス病についても調べていたため、テレビで紹介されている内容はとっくに熟知していた。

 ずいぶん前に病院で軽く言われた「ついでにキス病の抗体を調べておきますね」の一言を思い出す。

 関係ないことと思っていたが、今回とても役に立ちそうだ。

 キス病。

 キスを介してうつることが多いことからこの呼び名がついたらしい。

 実に日本人の90%の人が抗体を持っており、大人になってからかかると重篤化する危険があった。

 そしてキス税施行とともに感染者が急増している。
 そのため、検査をすることと不特定多数の人と接触しないことを呼びかけていた。

 南田の検査結果は「陰性」だ。
 抗体を持っていないことになる。

 しかしそれは今の南田にとって喜ばしいことだった。

 自分からキス病を彼女にうつすことはない。

 そしてもし奥村が抗体を持っていた場合、重篤化した自分を看病してくれるかもしれない。

 そんな淡い期待を持てる「陰性」は輝いて見えた。


 南田は職場で奥村に会っても今まで通り素知らぬふりを決め込んだ。

 自分とは関わらない方が彼女のためだという思いからだったが、そもそも契約を持ちかけなければ関わらずに済んだものを、そこは見ないことにした。

 それでもやはり奥村が気になる南田はしばしば食堂で気づかれないように奥村と吉井の近くに座っていた。
< 116 / 189 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop