キス税を払う?それともキスする?
 予想通り音声が流れた。最初は綾乃の声だった。

「あなた湊人のなんなのよ。」

「なんでもありません。」

 奥村の言葉に南田はズキッとする。

「嘘つかないで!
 キスしてるとこ見たことあるんだから!」

 しばらくの無言のあとにまた罵りの声が流れた。

「別に私は湊人じゃなくたっていいの。
 なのに湊人は全然私になんの興味も持たなくて。
 どうかしてるのよ。
 だから分からせてやりたくて!」

「分かります!」

 何故、奥村さんそこで同意など…。
 そう思った南田は次の言葉を聞いて、目を見開くことになった。

「南田さんはどうかしています!
 私なんて南田さんに振り回されるだけ振り回されて、私が南田さんを好きだと思った途端に…捨てられたようなものです!」

 な…にを言っているんだ。
 奥村さんは…今なんて…。

 まだ続く音声を呆気に取られつつも聞き続ける。

「なのに私の周りの人はみんな南田さんの味方ですよ?
 許してやってくれだ、信じてやってくれだの。
 私の友達でさえ
「南田さんの良さを分かってない」
 て言うんです。
 あんな人、ただの無表情の変人冷血男です!」

 最後はただの悪口だろ…。
 それにしたって…。

「アハハハハッあなたバッカみたい。」

 おいおい馬鹿にされてるぞ。

 もう南田には展開が読めなかった。
 大人しく経過を聞き続ける。

「あなた可哀想な子ね。
 なんだかあなたを見てたら馬鹿らしくなっちゃった。
 私もあなたみたいに血相を変えてたのかと思ったら…滑稽で。
 あんな男のために。」

 綾乃のだんだん落ち着いていく声。

「私もムキになってたのは分かってたの。
 でも引き際が分からなくなってたのかもね。
 それに湊人の友達が
「湊人なんてやめて俺にしろ」
 って言うのよ。それが余計に…。
 でもそうね。
 その人にしてみようかしら。」

 ガラガラと椅子をひく音が聞こえた。
 帰るようだ。

「あの…いいんですか?」

「湊人のこと?
 あなた見てたらよくなっちゃった。
 あなたは…上手くいくといいわね。
 不思議ね。
 今は応援したいくらい。」

 そこで音声は終わった。
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