キス税を払う?それともキスする?
 マンションに着くとリビングへ通して用意していたパソコンの前に座らせた。

「これは消さなければならないな。」

 南田がパソコンを操作して奥村に見せる。画面に映像が流れた。

 白い壁、ベッドに寝ている人。
 その人の声が流れる。

『…や。ヤダ…南田さん…やだって。』

「これ…。」

 奥村が倒れて医務室で寝ていた時の動画だった。

「こんなもので無理矢理の契約など…すまなかった。」

 やはりこのことへの謝罪はしておかなければ…。

 しかし貴重な動画はもちろん音源も消去するつもりは毛頭なかった。
 演技だけと言えば言葉は悪いが、二人の関係は動画に縛られていないと思って欲しかった。
 その認識をさせることが重要だ。

 だが、消さない。
 動画も音源も、僕だけのものだ。

 南田は続ける。

「綾乃と同様のことを僕は犯してしまった。
 卑劣だった。」

「綾乃って…。」

 奥村は驚いた声を出した。

「宗一のマンションで話したハッカーまがいなことをした奴のことだが、名は知らなかったか。」

 直接会っているのだから知っているのかと思ったが、そういうわけではないのか。
 それにしても何故、口先を尖らせるような顔をしているのか…。

「何ゆえ不機嫌なのかが理解できない。」

 謝罪さえ終えれば今日は和やかな雰囲気になると思っていたのだが…。
 ついため息混じりに名前を呼ぶ。

「奥村華。」

 華…その名を呼ぶだけで胸が締め付けられた。

「なんですか?」

 自分の呼びかけに呼応してあげる顔。
 彼女を無理矢理に縛り付けるものはなくなった今、名実共に奥村華は僕のものだ。

 顔をゆっくりと近づけ自分のものとの確認をしようとする。
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