キス税を払う?それともキスする?
 席に戻り仕事を始めようとしていると思わぬ声をかけられる。

「やっぱり華ちゃん!」

 華ちゃんだと?

 華の隣で南田は苛立つ気持ちを表情に出さないように努めて、耳をそばだてる。

「森山くん。華ちゃんは恥ずかしいから!」

 華は困惑した表情を浮かべた。

 森山くんって人懐っこいけど、人懐っこ過ぎてたまにどうしていいのか困るのよね…。

 森山は華の言葉に不満そうな声を上げた。

「なんで〜。
 せっかく同期で同じ職場になれたのに〜。
 ねぇ!今日の仕事終わり食事行かない?」

 仕事終わりに食事…。

 別に南田さんと約束しているわけじゃないけど、今日は早く仕事が終わったらマンションにお邪魔できたらなぁって思ってたんだけどなぁ。

「ねぇ!華ちゃん聞いてる?
 何か予定あるの?」

「予定っていうか…。」

 なんて答えたらいいんだろう。

 南田の方を気にする様子の華に、二人の仲を察知した森山はわざと質問する。

「華ちゃん付き合ってる人でもいるの?」

「付き合ってるっていうか…。」

 華はなんと答えていいのか言葉を濁す。
 その様子に勘のいい森山は全てを察した。

 ふ〜ん。今は微妙な関係ってわけだ。
 確か隣の人は南田って人だな。
 有名らしいけど堅物で面白みが無さそうな奴。
 微妙な関係ならまだまだ付け入る隙あるもんね。

 森山はわざと甘えるように華にお願いした。

「じゃいいでしょ?
 せっかく同じ部になれたんだからさぁ。」

「でも今日はちょっと…。」

 困惑する華にたたみ掛けるように森山は言葉を重ねる。

「ほら。前に部署に配属してからの飲み会で恋話したじゃん。
 その時に教えてくれた人の話とかしようよ。」

 別に俺は華ちゃんが誰を好きだろうと、こっちを向かせる自信はあるけどさ。
 こんな堅物の南田さんじゃ無理だろうね。
 好きな人の話を聞いて撃沈すればいい。

 森山は意地悪く心の中で笑う。

 森山の言葉に華は焦り、南田も奥村さんの恋話など初耳だ。と動揺していた。

「えっと…。今はもうその人のことはいいっていうか…。」

 何も今ここで南田さんに聞こえるように話さなくてもいいのに!
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