キス税を払う?それともキスする?
 昨日アパートに帰ったあと、南田の眼鏡が頬に当たる感覚と

「君の体が僕を忘れられないように、僕から逃れられないように…嫌でも求めるようにか?」

 の言葉が思い出されて、転げ回っていた。

 そして突然ばかりだった時と違う自ら受け入れたキス。

 その感触と漏れた南田の吐息まで思い出し、ますます転げ回った。

 その上で「捕食」の意味。

 一緒にいない時でさえ振り回されっぱなしの華は、今日こそは振り回されないぞと決意してきたのに、これである。

「せっかく招き入れたのに今にも凝固してしまいそうな客人をもてなすのも心苦しい。」

 飲み物が入ったグラスを華の前に置くと自分もソファにかけた。

 そしてテーブルにポケットから…スマホを出して置いた。

 華は目を丸くして南田を見る。

「え?…持ってない…って。」

「あぁ。君を口先で丸め込むのは容易いな。連絡先を教えていたら理由をつけてここには来ないだろう?」

 置かれたスマホを見て、動画を見せられたことまで思い出す。

 寝言の…動画…。

 あんな動画を撮られて見せられたことまで忘れていたなんて…。

 悔しくて鞄を握りしめると立ち上がった。

 いつも自分だけ緊張して、いつも自分だけジタバタして、いつも自分だけ…。

「もう契約したこともちゃんと…実行されましたし、帰ります。」

 華は南田を見返すこともなく玄関に向かった。

「待ちたまえ。認証…していけよ。」

 壁の機械を忌々しく見て、怒りに任せて帰りたかった気持ちを失わないように無言で機械の方へ向かった。
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