キス税を払う?それともキスする?
 そこへ急に声をかけられた。

「湊人!探したぞ。」

 どうやら南田の知り合いのようだ。

「どうしたんだ。まさか…。」

 南田の顔は見る見るうちに蒼白になり無表情ではなくなった。
 初めて見る無表情が崩れた顔はつらそうに歪んでいた。

「この人は?」

 華に気づいたその人が南田に質問する。

「無関係だ。」

 南田の言葉にズキっとしていると「関係ないわけないだろ」と南田を一蹴してから「あなたも一緒に来て」と華に告げた。

 連れて来られたのは南田のところとは別の大きなマンションだった。

 やっぱりお坊ちゃまの友達はお坊ちゃまってこと?

 急激に帰りたい気持ちが押し寄せてはいたが、未だに蒼白な南田が心配で帰れずにいた。

「どうにか食い止めようとはしたが、僅かな流出は免れなかった。これを見た人が湊人の周りの人間にいなければいいんだが…。あとは少し後処理をする。」

「あぁ。頼む…。」

 南田のスマホをパソコンに繋げて何かをしているようだった。

「あなたのスマホも貸してもらえませんか?」

 そう言われ戸惑っていると「こいつは関係ない」の言葉が重ねられた。

「関係ないわけないだろ?…これでもか?」

 会話中に届いたらしい華のスマホへの通知音に何か感じたように南田がますます顔を歪ませた。
 そして華にやっと話しかけられた。

「悪い。スマホを宗一に渡してくれないか。僕の連絡先や…様々なものが悪用された。宗一はそれを正常化できる。」

 華は自分のスマホを取り出した。
 そしてまだ理解できずに視線をスマホに落とした。

 すると素早くスマホを奪われ「見るな」とひどく冷たい言葉をかけられた。
 代わりに宗一と呼ばれた南田の友人に声をかけられる。

「大丈夫。関係ないメールだったら何もしないから。」

 了承する前にスマホを持っていかれ意見する時間さえ与えられなかった。

 スマホが返されると宗一が南田に「この子に説明した方がいいんじゃないのか?」の言葉を投げた。

「関係ない…。」

 蒼白だった顔はまた無表情に戻っていたが、それでも憔悴しきった感じがうかがえた。

「じゃ俺のしたことの説明をするのは俺の自由だろ?」

 南田はそのことについては何も反論をしなかった。
 宗一は華に視線を移して話し出した。

「突然で驚かせちゃったね。根も葉もない情報が流されたんだ。あなたはハッカーって知ってるかな?」

「…パソコンに違法に浸入してデータを壊したり盗んだりする人のことですか?」

「まぁそんなとこかな。それを南田がやられたんだ。」

 華は話が壮大過ぎてついていけない。

「でも私は南田さんとは連絡先を交換していません…。」

 それなのにどうやって…。

「そこは…どうやったのか分からないが…。でもそれほどまでにってことだ。」

 何がそれほどまでか分からないけれど、よほど重大なことのようだった。

「俺は普段SEとして働いてる。だからそれなりの知識があって、悪用されたデータなんかを少しは回避することができる。」

「もういいだろ?」

 南田は立ち上がり帰ろうとする。

「おいおい。そりゃないだろ?ちゃんとこの子に説明してあげろよ。俺は席を外すから。」

 気を遣ってくれて宗一は部屋を出て行った。

 ため息とともに椅子に腰を下ろした南田が口を開いた。

「契約を解消しよう。」
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