キス税を払う?それともキスする?
 お店の外まで出ると外は寒くて身が引き締まる思いがした。

「上着を持ってこれば良かったなぁ。」

 そうつぶやいていて、そっと頬を触る。
 いつも眼鏡が当たっていた場所。

 そしてポケットに手を入れた。

 封筒越しの固い金属が手に当たる。

 いつも持ち歩いている南田のマンションの鍵。返しそびれていた。
 でも次に返したら南田は受け取ってしまうだろう。

 もう何もかもが無かったことになるようで華は返せずにいた。

 返せ。なんて言って来ないのが南田さんらしいのか…なんなのか…。

 はぁ。ため息をつくと息が白い。

 寒いのに寒いおかげで頭の芯はハッキリとした。
 華は南田とのことを思い出していた。


 キス税を嫌だと悩んでいた自分を見て、契約を持ちかけてきた南田。
 最初なんて無理矢理で…。

 重ねたくちびるを思い出すと胸がキュッと痛かった。

 しちゃったから好きになっちゃったのかな…キス…。
 南田さんもそうだったら良かったのに…。

 キスして認証すると好きになるって、そういう…さ。無理だよね…。

 もういい加減、踏ん切りをつける頃なのかもしれない。

 南田さんに嫌がらせをしていた人に一転して応援されちゃったけど、私じゃ無かったみたい…。
 南田さんの相手。

 一人、悶々とそもそもが解決しない思いを処理できないでいると、誰かが背後からやってくる気配がした。

 「寒いだろ?」の声とともにコートをかけられた。
 そのコートは暖かく、体が冷えてしまっていたことに気づくことになった。
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