キス税を払う?それともキスする?
「まぁマンションに来ても、また玄関で待たせることになるがな…。」

 前の鶴の恩返しを想像したことを思い出して、フフッと笑う。
 そんな華に南田は反省の色を見せた。

「やはり君への長時間拘束が否めない。今日は帰宅させる方が賢明か。」

 なんだろう…。南田さんって…。

「私、まだ南田さんのこと好きとは言ってませんけど。」

「な…。それは…。そうか…違うのか?」

 南田の無表情は崩れないけれど、声から動揺しているのがうかがえた。

 本当だ。人が動揺しているのを見ると自分が冷静になれるみたい。
 華は心の中でフフフッと笑った。

「さぁ?内緒です。」

「…それは卑怯だと言わないのか。」

 どっちがよ。

「だって他人事みたいに言われても…。
 目を見てちゃんと言ってくれなきゃ分かりません。」

「な…。」

 また顔に手を当てた南田が顔を背けた。

「では互いに帰宅しよう。」

 もうなんでそうなっちゃうのよ!

 華は何も言い返せずにむくれてアパートに足を向けた。

 からかってたわけじゃなかったのかもって思えたのに、なんだかよく分からない!

 華は南田の本心がどこにあるのか掴めないまま歩き出した。
 その華を追い越して南田が先を歩く。

 理解できない言葉を華にかけて。

「夜も遅い。アパートまで同道しよう。」

 どうどう…。
 馬か何かをなだめてるつもり?

 不可解な視線を向けても背中では返事が聞かれなかった。


 結局、華は一番聞きたかった
「僕は好きでもない人とはしない」
 がどういう意味だったのかを質問できずに南田と別れた。

 そしてそれ以上に難解な言葉が胸に引っかかる。

「僕は君のことが好きらしい」

 そのまま素直に受け取っていいのか。
 文章は難解ではないのに、そこに含まれる真意が難解に思えてならなかった。
< 94 / 189 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop