アーサ王子の君影草 ~スズランの杞憂に過ぎない愁い事~
 ライアの挑発的な態度に今にも食ってかかって来そうな程、セィシェルも拳を震わせた。
 そんな二人の間にユージーンが仲裁を買って出る。

「……とりあえず皆、建物の中へ…! これ以上強い雨に当たってはまた…」

 ユージーンに促され、一旦皆で店奥の居間へと移動する。セィシェルは悔しそうに奥歯を擦るとライアを鋭く一瞥し、言葉を続けた。

「入れよ…。一体何の話か知らねぇけど一言くらいなら聞いてやる」

「! ……恩に着るよ」

「ふん…」

 セィシェルは面白くなさ気に鼻を鳴らし、濡れた姿のまま自室のある上階へと上がっていく。

「おい、待てよセィシェル…! どこに…」

「俺は逃げねえ。あんたと話するならサシでだ! 後で俺の部屋に来い。 スズはまず親父にちゃんと謝れよな。それからだ」

「っ…はい」

 セィシェルがそう言うのも最もだ。先程から終始心配そうに顔面を青く染めているユージーン。
 スズランはユージーンに向き直ると全力で頭を下げた。

「マスター、何度も心配かけてごめんなさい!!」

「……」

 無言のまま立ち尽くすユージーンにスズランは頭を下げたままもう一度言葉を重ねる。

「本当にごめんなさい…、わたし…」
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