アーサ王子の君影草 ~スズランの杞憂に過ぎない愁い事~
 ライアが悪い訳では無い。自分で勝手に自惚れて、いつの間にか良い気になっていたのだ。
 元より、彼がこの国の為を想って行動しているのは事実であり本物だ。この国の王子が自ら危険を冒して国の民を守ろうとしている事など大半以上が知らない。背負っているものがまるで異なる。

「……っ…」

 それでも心配な事には変わりない。
 ライアとヴァレンシアが事件について話しているのを聞いた時、何故か不安で堪らなくなった。察するに、ライアは自らを二の次にする様な所があるからだ。今、この瞬間にも何処かで危険と隣り合わせになっているかもしれない。そう思っただけで心がしめつけられるのに、出来る事は何も無くて情けなくなる。
 エリィの様な芯の強さと行動力。
 ヴァレンシアの様な知識と大人の余裕。
 そのどちらもスズランは持っていない。

『貴女はライアに有益な何かを齎す事が出来るのですか?』

「……そっか、ハリさんが言っていたのってこういう事なんだ…」

 今になってやっと言葉の意味を理解したが、スズランには到底無理だと言う事が露呈しただけだ。
 ならば考えなければいい。
 何もかも全て忘れてしまえばいい。
 ……それこそ到底無理なのに。
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