アーサ王子の君影草 ~スズランの杞憂に過ぎない愁い事~
(なんでママが……なんで大切な家族が犠牲にならないといけなかったの? どうして?)

 空を引き裂く雷が嫌い。
 優しい声をかき消した雷が嫌い。
 それはぼやけた意識の中でも鮮烈に残った───。


 豪風が吹き荒れ、枯渇した大地。
 極端に気温が高く暑い国。
 かと思えば、何もかもが凍てついた国。

 そして太陽が全く顔を見せない真っ暗な国。

 父と子は各地を転々と移動しながら身を隠した。しかし斯様な土地は、息をする様に草木を愛でて心の安らぎを経て来たフリュイの民にとって、かなり過酷な環境だった。ましてフルール一族は血が濃く、古代種としての特性が強い。
 乾燥や冷気に弱く、光の届かない世界に長く留まれば次第に衰弱してしまうのだ。

「───ねえパパ、ママは? ママはどこにいるの? スゥおうちにかえりたい…」

「ごめんね、スズ。今お家に帰る事は出来ないんだ……それにママはね、悪い奴らを懲らしめに行ったんだ。だからまだ帰って来れないんだよ」

「わるい、やつら?」

 憂いを帯びた声に言葉を返す。

「うん。この美しい世界(リノ・フェンティスタ)を壊そうとしたり、パパとママからスズを取り上げようとするとっても酷い奴らなんだ…」

「そ、そんなのひどい!」
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