《完結》アーサ王子の君影草 中巻 ~幻夢の中に消えた白き花~
 大丈夫…。何故そう言い切れるのだろうか。自分は酒場(バル)の看板娘という肩書き以外、本当に何も持っていない。それに公の場で失礼な振る舞いをしてしまったら?
 自分には荷が重いのでは無いかと──。
 そう思うと急に足が竦み、怖くなった。

「……では…、スズラン様は行かないおつもりですか? アーサ様は貴女の為にお一人で立ち向かう覚悟を決めたのに! それに……アーサ様のこと、ライアだなんて気安く呼ばないでください!! あたしだったら絶対に助けるわ……あたしが貴女だったら良かったのに…っ」

「っ!!」

 穏やかな声だがあまりに鋭い主張だった。リーナの言葉が心の奥に深まで突き刺さる。しかしリーナは小さく「失礼します」と言い、部屋から飛び出して行ってしまった。

「あっ、こらリーナ!」

「……ごめんなさいサリベルさん…。わたしリーナさんを怒らせて…」(どうしよう。わたし、なんにも考えてなかった……っ覚悟を決めてここへ来たはずなのに…)

 声が震える。どうしてか泣きそうになった。

「不躾な娘で申し訳ございません。……あの子は幼い頃から殿下に憧れていて…。赤ん坊の頃に命を救っていただいたので尚更…」

「そうなんですか…」

 スズランの知らないライアの一面が見え隠れする。やはり気の所為ではなかった。初めに向けられた視線も、先程聞き取れなかった言葉も。
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