《完結》アーサ王子の君影草 中巻 ~幻夢の中に消えた白き花~
 そう声をかけるとスズランは見る見るうちに真っ赤になり、頬を膨らませて睨んでくる。

「むぅぅ」

「ん? どうして膨れてるんだ?」

「……だって、毎朝おんなじ事言うから。わたし、もう平気だよ? それに、起こす時はもっと…、普通に起こしてってお願いしてるのに…」

「俺に起こされるの、嫌だった?」

 少し意地悪な言い方をしてみる。

「い、嫌なわけ…っないけど…」

 ぷくりとした真っ赤な頬。視線を逸らすスズランに、もう一度極上の笑みを向けた。

「なら問題ない。お早う、スズラン」

「うぅ、おはよう。ライア…」

 毎朝こうしてスズランを起こすのがラインアーサの日課となった。
 何度「もう平気」だと告げられても、当分の間は確かめずにはいられないだろう。
 長い夢の淵から戻った彼女に、これまでの比では無い位より過保護になったという自覚はある。過剰とも思われるあまりの溺愛ぶりに周囲からは勿論、スズラン本人にも若干呆れられている気もするが。
 しかしあの色の無い灰色の日々にはもう二度と戻りたくないのだ。誰に何と言われようと。


 * * * * * *


 葉の隙間から美しい光を零しては煌めく木漏れ日。全身に吹く優しい風。中庭の大樹の下で暖かな陽気に微睡む愛しい人の姿。
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