sugar days〜弁護士のカレは愛情過多〜
静かに首を横に振って、視線をテーブルに落とす。
あの夜から詠吾さんには一度も会っておらず、電話がかかってくることもない。
彼の方に心はないんだとわかっているのだからそれで問題ないはずなのに、まだ完全に吹っ切れていない私の心は曇ったまま。
しばらくしてコーヒーが運ばれてくると、凛さんはブラックのまますぐ口をつけて、一口飲んだ後でカップを持ったまま続ける。
「ただ、結局二人で情報交換をしても進展はなかったの。こちらも強制捜査ができる段階でもないし、どうしようかと手詰まりになっていたところだったんだけど……」
そこで言葉を切った凛さんが、お皿にカップを置いて私をじっと見つめる。
……なんでだろう。国税局の査察官と会社の顧問弁護士が結託しても明るみにできなかったことを、私にどうにかできるわけないのに。
凛さんの熱い視線に戸惑って、私もコーヒーに手を伸ばす。そしてぎこちなくずず、と褐色の液体を啜ったそのとき。
「岡田祥平という男がどうやら協力者みたいなの。藤咲さん、知ってるわよね?」
思ってもみなかった名前が飛び出し、コーヒーが気管に入った私は咳込んだ。
副社長だけでなく、祥平さんまで脱税に加担しているというの?
「……まあ、直属の上司ですから知ってますけど」
仕事上でなら、という意味でそう言ったのに、凛さんは「そういうことじゃなくて」と苦笑した。