sugar days〜弁護士のカレは愛情過多〜

副社長と凛さん



マンションの外には凛さんの車が止まっていて、彼女が家まで送ってくれるという。

お香のせいで身体は怠いし、一人になることがちょっと怖い私は、お言葉に甘えて助手席に乗せてもらうことにした。

車が発進して夜の街を走り出し、どんどん祥平さんのマンションから離れていくと、私の緊張の糸も緩んで、じわっと目に涙が浮かんできた。

怖かったやら、詠吾さんの気持ちがわからないやらで、心の中がぐちゃぐちゃだ。

膝の上に置いた手の甲にぽたっと涙がこぼれ、それに気づいた凛さんが心配そうな声を出す。


「大丈夫? 怖かったわよね、まさか無理やり婚約を迫るだなんて……乱暴なことはされなかった?」


鼻を啜って、コクンと頷く。キスはされてしまったけれど、それ以上のことはない。

それよりも、精神的に追い詰められて、何もかもどうでもよくなっていく感覚が怖かった。

凛さんが助けに来てくれなければ、私の心は死んでいたんじゃないかと思う。そしてきっと祥平さんの妻という演技を、一生自分に強いていただろう。

そうならなくて済んだのは幸運だったのかもしれないけれど、まだ生きている心が求めるあの人は、私のことなんて見ていない。そう思うと、胸がぎゅっと切なくなる。


「実はあの不気味なお香……私も体験済みなの」

「え?」


ふいに運転席から飛んできた言葉に、涙を拭って顔を上げた。

凛さんはハンドルを握って前を見ながら、自嘲気味に語る。


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