ぼくのセカイ征服
──約3時間前…

創部に関する諸々の手続きを済ませた僕は、家路についていた。
普段とほとんど変わらない帰り道。しかし、空だけは、普段とは格段に異なっていた。蒼空は紅に塗り替えられ、その光を反射する道路は、薄紅色に染まっている。
そして、沈みかけた太陽は、道路に僕の影を縦長に映し出す。

もう、夜が近い。

今まで、帰りのSTが終わるとすぐに帰宅していた僕にとっては、その黄昏時の帰り道は少し新鮮に感じられた。
いつもと違う僕は、いつもと違うその道を、悠々と歩いて行く。

と、その時。

僕は見てしまった。あんな光景を目にすれば、大半の人が心を傷め、正義感の強い人なら、助けに入ってしまうだろう。
生憎、その時の僕は、正義感が無駄に肥大していた。その、『ヒーローもどき』な僕にとっては、『多人数で一人のか弱い女の子を取り囲む』という行為はもちろん、許せなかった。自然と、そちらに歩が進む。
近付いてみると、どうやら硬直状態が続いている様だ。少女は、逃げようとも大声を出そうともしないし、かといって、男達を威嚇する事を忘れているわけでもない。男達も、その態度にはたじたじ、といったところだ。

ん…?よく見れば、囲まれている少女は、僕と同じ高校の生徒ではないか!あの制服、間違いない。あわよくば、部活に入部してくれるかも。という淡い期待が、一層僕の正義感を奮い立たせた。

なので。

「おい…アンタら…」
「あぁ!?ンだよ!?」

…一応、話し掛けてはみたものの、やっぱり怖い。この後、どうしよう?
続ける言葉を見付けられず、怯んだ僕は思わず一歩退いてしまった。
その時。
僕の目が、取り囲まれているいたいけな少女の目と合った。
それが。
僕と、そのか弱い女(この時はまだ、男だとは気付かなかった)、『瓜生 瞬牙』(うりゅう しゅんが)の出会いだった。

それと同時に。
僕はさらに出会ってしまったことを悟った。今まで出会った事もなく、これからも出会う事はないと思っていた、『命の危機』というやつに。
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