不埒なドクターの誘惑カルテ
 床にあった段ボールを開けると、ほこりが舞い咳がでてしまう。どれぐらいの間放置されてきたのだろうか……。普段利用しないところでだって、事故は起きるのに。

 薄暗い蛍光灯の灯りのなか、女性社員と一緒にまずか一角から片付けていくことにする。

「一か所だけでも綺麗にしましょう。あとは、少しずつ整理して——」

 顔を上げたときに、私は驚いて目を見開いた。女性社員の後ろの棚がぐらぐらとゆれている。

「危ないっ!」

 私はとっさに彼女の手を引き、崩れてくる荷物から彼女を遠ざけた。しかしその代わりに私の頭上から荷物が落下してきた。

 どんどん落ちてくるバインダーが体に直撃した。しかしその後——。

「うそ……っ……わぁ」

「坂下さんっ!」

 スチールの棚が倒れてきて、私の足の上にのしかかる。

「……っう」

 痛みと衝撃で顔がゆがむ。段ボールがクッションになって直撃はされなかったもののやはりダメージは大きい。とくに足の痛みがひどかった。

 どうしよう……どうしたら……。

「じっとしててください。すぐに助けを呼びますから」

 女性社員がポケットからスマートフォンを取り出したとき、大きな物音を聞きつけた工場の社員たちがかけつけてくれた。

「おい、大丈夫かっ?」

 真っ先に私に駆け寄って、重いラックを持ち上げようとしてくれたのは、あの工場長だった。数名でもちあげてくれてやっとの思いで這い出した。

「はぁ・・・・・・っいた」

 立ち上がろうとした瞬間、左足に痛みが走る。

「怪我……していますね、とにかくまずは事務所に行きましょう」

 数名の手を借りて、痛みに堪えながら事務所に移動する。いつもは威圧的な態度の工場長も苦渋の表情を浮かべていた。

 そんな周りを安心させようと、痛みに耐えて案外平気だとアピールした。

「あの、怪我はきっとたいしたことないです。これぐらいですんでよかったです」

「とりあえず、冷やしますか? あ、でも・・・・・・事務所よりも更衣室の方が手当しやすいかも」

 女性社員が気をきかせてくれた。パンツスーツを着ているとはいえ、みんなのいる事務所の中での治療は抵抗がある。彼女の提案を受けいれて、私は更衣室で応急処置をうけることにした。

「すみません、手当までしていただいて」

「謝らないで。あなたがかばってくれていなかったら、私がけがをするところだったんだから」
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