呪われ姫と強運の髭騎士
 彼は背もたれの縁に肘をついた。
 
 長い指が彼の形良い顎にかかる。その姿は気怠そうに見えてもどこが色艶があって、ソニアの胸がシクシクと疼く。
 
 彼の方が一つ年上だ。ただそれだけの年齢差なのに、彼の方が大人に見えるのは何故なんだろう?
 
 夜の、この深い闇が見せる幻想なのか。

「剣を握るのが嫌になった――かな。考えてみたら僕は騎士になりたいわけではなかったし、鍛錬の一環としてクリスから剣や武道を教わっていたからね」
「でも、それは王族の一人として、身に着けなければならない物の一つではありませんか?」
「これでも、そこそこの腕前はあるよ」
「では、セヴラン様は今は何をしていらっしゃいますの?」
「強いて言えば『接待係』?」
 
 そこでクリスが言っていた台詞を思い出し、ソニアの目が寄る。
 
 ――女性接待係

「……何か、いかがわしいこと考えていない? 僕が女性限定の接待係だとか?」
 
 目が物語っていたのか。ソニアは否定せずに頷く。
 
 あまりの素直さに、セヴランの口から笑いが漏れた。

「アッハッ……! その素直さは昔から変わらないね、ソニアは。そんな噂は確かにあるのは知ってるけど、何も女性に限ってのことではないよ」
「そうなのですか?」
 
 疑わしい眼で自分を見つめる、ソニアのヒアシンスブルーの瞳を覗く。
 
 その覗かれた翠の瞳が表情共にとても真剣で、ソニアは思わず見つめ返す。
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