呪われ姫と強運の髭騎士
ゆっくりと進み、ようやく城下街を抜けたソニアとクリスは、ほー……、と全身の力が抜けるような息を吐いた。
 
同時にやったので、お互いに顔を見合わせ笑い合う。

「クリス様も同じ気持ちでした?」
「ソニア様も? ただでさえ緊張をするというのに、こんな馬車で見られっぱなしでは疲れますよね」
 
そう話すクリスに、ソニアは不満げな顔を見せた。
 
クリスは不思議に思い首を傾げる。

「如何しました?」
「私達、もう夫婦なんですよ? 『様』なんて他人行儀みたいなの、つけないでください」
 
それはそうでしたな、と軽い笑いをあげるとクリスは、ソニアの手を握り彼女を見つめて言った。

「ソニア」

と。
 
自分だけに聞こえるよう低く囁く声に男の色気を感じて、ソニアはかあ、と顔が熱くなる。

「……あの、その、私は、クリス様のことを、何と呼べば、良いでしょう?」
 
顔を真っ赤にしながら尋ねてくるソニアを、クリスは可愛いと思いながら、

「好きに呼んで下さい」

と微笑む。

「う~ん……『クリス様』だと今までと変わらないし、だといって呼びつけだと生意気に感じられますし……『旦那様』は如何でしょうか?」
「良いですよ、ソニアの好きな呼び方で」
「――もう! それではクリス様がどんな呼び方が好きなのか――あっ……クリス様って呼んじゃった……」

はたと気付き慌てるソニアを見て、クリスは楽しそうに笑いながら言った。

「少しずつでいい。慣れていきましょう。先はまだまだ長いのですから」
「そうですね、慌てなくても――」
 
ソニアの口が塞がれた。
 
塞ぐのはクリスの温かい唇だ。

「――ん」
 
ソニアの詰まった声のあと、彼の唇が離れた。

「これもね。結婚式の誓いの口付けから、まだ二回目ですから」
 
ウィンクして見せた彼は、何処かいたずらっ子のような表情を見せた。
 
だけど、余裕ある大人の雰囲気は隠せようがない。



< 270 / 283 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop