呪われ姫と強運の髭騎士
 馬車から降りた早々、ソニアは愕然と城を見上げた。

「本当にクレア城なの……?」
 
 そこにそびえ立つ、大きな城を見上げる。
 
 漆喰で塗られていた白磁の城は、その姿を失っていたのだ。
 
 白い漆喰はこそげおち、積み上げられた石材が醜く見えている。
 敵襲に備えるための、囲む城壁も平和で必要がないと言わんばかりに崩れて、手入れがされていない。
 それに城門から玄関まで続く道も、道を彩る並木も枯れて荒れ放題だ。

「姫」
 
 呆然と周囲を見渡したままのソニアはクリスに声をかけられて、彼の顔を見上げた。
 
 ふと、彼の後ろにそびえるクレア城が視界に入り、その異様な雰囲気に硬直した。
 
 暗い――こんな爽やかで快晴な天気を隠すように、何か黒い渦みたいな物が城を包んでいるように見える。

「何があったの……?」
 
 ソニアは、それだけ口にすると息を飲み込んだ。
 口を真っ直ぐに紡ぐと強い眼差しを城に向ける。

「行きましょう、クリス様」
 
 そう言うと誘導を、と促すように右手を差し出す。
 
 その主人たる様子にクリスは口角を僅かに上げ

「仰せのままに」


 と彼女の手をとった。

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