【B】眠らない街で愛を囁いて



「えっと、あそこ入りませんか?。
 お世話になったお礼に、今日はご馳走させてください」



そう言うと、彼女が指定したお店へと車を駐車した。
その場所は数えるほどしか入ったことがない、俗にいうファミリーレストランというやつだった。




「いらっしゃいませ。
 どうぞ、こちらにお名前を記入になってご案内までお待ちください」


スタッフの声に、俺は待合らしいソファーへと案内される。



レストランに行って、こうやって待たされたことは俺の経験上殆どない。
俺が出入りする店はたいてい、顔を出しただけで専用の奥の部屋へと案内してくれる。



テーブルが用意できるまで、待ち続ける時間もなんだかワクワクしてる
子供みたいな感情が溢れる見知らぬ俺がそこにも存在していた。





「お待たせしました。
 お席のご用意が出来ましたので、2名様でお越しの名桐様、どうぞご案内いたします」


スタッフの声に誘われるように案内されたテーブル。


そこに座ると、叶夢ちゃんは大きなメニュー票を広げた。



「ここのオムライス美味しいんですよ。
 後はハンバーグもって、なんか私子供みたいにはしゃいで……すいません。

 でも今日、全部食べれるかなー」


そうやってこぼす彼女に「食べれなかったら、俺が貰うよ」と言葉を続けた。
表情を明るくさせて、「じゃっ私決めました」っと彼女は言う。



彼女が決めたのはオムライス。
そして俺が選んだのは、特大で注文したハンバーグ。



彼女は俺のお皿から、すすめるままに少しずつハンバーグをお箸できっては、
美味しそうに口の中に頬張る。




「あっ、千翔さん。
 このオムライスも食べてみてください。

 本当に、とろっとろのふわっふわで美味しんですよ」



テンションの上がった彼女が不意に呟いた、俺の名前に心が強く跳ねる。



「あっ、ごめんなさい。
 私ったら、千翔さんって名前で……。

 泉原さんって呼ばなきゃいけないのに」



そういって、ペコっと頭に拳骨を軽く振らせて首を傾げる彼女。



「叶夢ちゃん、千翔でいいです。
 千翔がいいです」


俺の発言に、目の前の叶夢ちゃんはキョトンと不思議そうな視線を向ける。


「だから俺も叶夢って呼ばせてください」



はっ?どさくさに紛れて俺何言ってんだよ。

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