キミのトナリ
3.境遇を憂う


それから彼は治療のため、入院した。

その頃の私は自分のことばかりで彼のことなんてこれっぽっちも思いやっていなかった。



「三角!これ、どういうことだよっ」

同じ部署の先輩・矢野さんが烈火の如く怒って私に書類を投げつけた。

「誤字脱字は多いわ、計算ミスあるわ、相手の社名間違えるわ。こんなの新人でもやらねーぞ」

「すみません!」

私はひたすら謝るしかなかった。


「ちょっと来い」

そう言って、矢野さんに連れてこられたのは会社近くのレトロな喫茶店。
ここは主に一部の社員の穴場的な場所でサボったり大事な話をしたりする時によく来る。


「お前、しばらく有給とれ」

「え?」

「あんま寝れてねーだろ、最近」

矢野さんは私の目元をじっと見るから思わずうつむいた。

実は、コンシーラーでも隠し切れないほどのクマがここ数日出ている。

周りには「最近夢中になってる海外ドラマがあるんですよねー」なんてうそぶいてるけれど、矢野さんにはそんなことは通じない。

彼と同期の矢野さんは、私と彼が付き合っていることを唯一知っている相手でもある。


「でもっ」

「でもじゃねーよ。今のお前だと、今にデカいミスしそうでこっちもヒヤヒヤする」

「……」

「幸い、今は繁忙期じゃねーし、……看病に専念できんだろ」

「イヤです!仕事と両立します!」

矢野さんは私が意外と頑固だってことをわかってる。
溜め息を吐いたあと、軽く首を振った。

「じゃあ、さっきみたいなミスはやめろ。お前のことをメンドー見てる俺の顔に泥を塗るようなことはするな、アイツのためにもがんばれ」

「はいっ」


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