キミの音を聴きたくて


「……それは綺麗ごとだ」



ねえ、どうしてですか。



そんなにねじ曲がった考え方をして生きていても、楽しくないのに。



自分に素直に生きた方が─────したいことを心から楽しんだ方が。
きっと充実する。




昔の私もそうだった。



歌いたい気持ちを抑えて、自分を縛って。
自暴自棄になっていた。



でも、今は少し変われた気がする。




「自分のしたいことをできるなんて、幸せだな……」



彼はまた切なげに、自嘲気味に笑う。



そんな顔を見たくて言ったわけじゃなかったのに。




「あ、せんぱっ……」



「来るな」



────この日を境に、天音先輩は話しかけてこなくなった。


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