偽りの婚約者に溺愛されています
「そうだ。君はお金で俺を雇うんだろ?それならば俺にもメリットがあるじゃないか。タダだなんて言ってない」
「え?」
咄嗟に思いついた俺の言い方は最低だ。まるで金が目当てだと思われる。
だが、ほかに彼女を頷かせる理由が思いつかない。
「いくら出せる?俺はそんなに安い男じゃないよ」
どう思われてもいい。
君が納得してくれるのならば。
とにかく、なんとしてでも阻止したい。その一心だった。
「あ、あの。本気ですか?お金は……うーんと。……四百万円くらいなら」
「えっ?なんだって?」
耳を疑った。
「えっ?や、安かったですか。じゃあ、もう少し……」
「いや……。そうじゃなくて」
驚いた。まさかそんな大金を提示してくるとは。
社会に出てから、貯めたお金だろうか。
そんなものは受け取れるはずなどないじゃないか。数万円だと勝手に考えていた。すべてが終われば、笑って返せばいいと。
だが、俺が躊躇すれば、彼女はこの話を無かったことにするだろう。
「……いいよ。まあ、妥当だね。引き受けるよ」
心とは裏腹に、口では平然と受け入れる。
そんな俺を、彼女はじっと見つめた。
気持ちを読み取られないように動揺を隠しながら、彼女を見つめ返す。