偽りの婚約者に溺愛されています
「笹岡と俺はパスだ。君たちだけで行ってくれ。今日はホテルでのディナーを予約してしまったんだ」
え……?
その場にいた全員が、唖然とする。
「俺たちはこれから大人のデートだから。前祝いはふたりきりでするつもりなんだ。な?夢子?」
「えー?!な、なんですかそれ!」
「嘘!マジ⁈」
「どういうことですか!」
彼の話に、皆は大きな声で口々に言った。
私は口を開けたままの状態で、彼を見つめた。
「付き合ってたの⁈いつから!」
「夢子さまー!うそ~」
「課長ー!!いやー!!」
「課長!笹岡は男ですよ⁈」
予想を超える発言をした彼に対し皆が騒ぎだす。
オフィスはパニック状態になってしまった。
そんな彼らに、松雪さんはぴしゃりと言い放つ。
「うるさい!彼女は女だろ!君たちがどう思おうが自由だが、侮辱する発言は許さない。まあ、彼女の女の顔はこの先、誰にも見せるつもりはないけどな。俺ひとりの特権だ。あの色気はやばい。ま、詳しくは言わないけど」
シーンと静まり返った彼らに、松雪さんはニヤリと笑う。
「だが君たちが、鈍感で助かったよ。俺が赴任するまで、誰にも夢子を奪われなかったのは奇跡だと思う。こんなにかわいいのに、男性陣がどうして口説かなかったのか不思議だよ」
皆の視線が一斉に、松雪さんから私に移る。
ちょっ!ちょっと!
なにを言ってるのよ?!
いくらなんでもやりすぎだと思うが、この場でそんなことは言えない。