偽りの婚約者に溺愛されています
店をあとにし、ホテルのロビーを抜けて外に出る。
並んで隣を歩く彼女を、横目で見下ろす。
ほろ酔いなのか、ニコニコと嬉しそうにしている彼女を見て胸が苦しくなる。
俺と過ごす日が終わるとき、君はなにを思うのだろう。
最後に交わす言葉はなんなのか。
「夢子。手を繋ぐか」
俺の言葉に、彼女は俺を見上げて頷いた。
どちらからともなく繋がり、絡まり合う手が、いつか終わることを夢のように思わせる。
「今日は初めてのことばかり。なんだか嬉しくなってきます。私もこんなふうにできるんだって、自信が湧いてくるの」
「君は頑固だから、できないと思い込んでいただけだろうな。普通の女の子だから、恋も充分できる」
「そうかもしれません。……でもね……」
急に立ち止まった彼女に合わせて止まる。
「私を好きになる人なんて本当にいるのかなって、考えてしまうんです。私が好きになる人は、きっと私に振り向いてはくれません」