恋愛預金満期日 ~夏樹名義~
恋愛預金に気付きません
 寒い!
 
 冷たい風が頬に当たり身を竦める。


 私は寒さから逃げるように、足早に銀行の入口へ向かった。

 自動ドアからキャッシュコーナーで並ぶ人達の後ろを通り抜けた辺りで……

「いらっしゃいませ」と銀行員の声が響く。

 一人の声が合図であるかのように、次から次へと「いらっしゃいませ」が響いてくる。

 うん! 気持ちいがいい…… さすが銀行、挨拶が行き届いている!

 なんて、偉そうな事を考えながら、声のする方へ私も笑顔で頭を下げる。
 この瞬間が私は結構好きだ……


 午後一時三十分に銀行の総合窓口へ向かうのが、ほぼ毎日の私の日課だ。

 沖田建築というそれほど大きな会社では無いが、地元ではそれなりに名を上げている。


 雨宮夏樹(あまみやなつき)二十三歳、経理担当になってからは、午後は銀行やらの外回り担当だ。

 総合窓口担当の谷花美也の元へ行き、迷惑にならない程度の世間話に笑いが毀れる。
 美也は目鼻立ちの整った美人で、窓口にふさわしい人だと思う。


 次に山下課長に頼まれた、手形の一覧をもらいに融資窓口へと向かった。

 融資担当の海原という人は、年齢不詳で若いのか? 
 落ち着きのあるような無いような不思議な人だ。
 そして、スーツが大きくてぶかぶかしている。
 

 でも、私が融資の窓口へ行くと解っていたかのように、直ぐに封筒に入った書類を私の前に差し出してくれる。 私は、彼の目を見てお礼を言うと頭を下げた。
 
 彼も、深々と頭を下げた。
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