甘えたいお年頃。


謎の儀式が終了すると、今度はケーキを含めたお菓子パーティが始まった。
さすがに立っているのは疲れてしまったので、皆はピクニックシートを下に敷き、座って食べ始める。

私はトイレを借りると断りをいれ、そっと中庭から出て行った。

‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥


「……んっっだよあれ!? 急にどうした!? 何してたのあの時間!?」


一人で叫ぶ。
なんなんだ。
なんなんだったんだあれは。

いや、なんとなく状況は把握している。

おそらくこの誕生日パーティは誕生日を祝う事が目的なのではない。
里菜があの尚人という男と距離を詰めるための完全な策略だったのだ。

しかも尚人はちゃんと里菜の好みを把握した上で、きちんとプレゼントを選んでいる。
多分だが、尚人の方もまたまんざらではないんじゃないだろうか。

あの時の光景を思い出す。
向かい合う二人。身長差もいい感じだった。
尚人は完全な無表情だったが、里菜の顔は完全に恋する乙女だった。

そして周り。
周りはおそらく里菜の恋を応援している。
尊が尚人に来るように仕向けたのだろう。


「っ、あーーー!! なんで私こんなとこ来たのーー!? ふ、ざ、け、ん、なぁあ!!」


トイレに自分の声が反響する。
さすがに壁で頭を殴るのは止めた。人の家だ。危うく忘れるところだった。

とにかくもうこのパーティから出て行きたい。
こんな、他人の恋を手伝うためのパーティなんぞごめんだ。
私はトイレの外に置いておいた肩掛けバッグに手をかけようとしたーーが。


「……あ」
「……えっ」


人の声がする。
左を向くと、当の本人ーー尚人が今にも帰ろうとしていた。

しばらくの沈黙。
おそらく多少は私の声も聞こえていただろう。

気恥ずかしさが勝って、慌てて引っ込もうとすると、尚人は「待って」と私を制止した。


「何……いや、なんとなく言いたいことは分かります。すみません、ほんと……人の家で何やってんでしょうね」
「……」


バッグを握りしめ、制止されたにも関わらず中へ引っ込む。
コミュ障が祟って、同じような言葉しか紡げなかった。
尚人はしばらく黙っている、が。


「……ーー」
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