甘えたいお年頃。

夕方5時頃。
そろそろ解散しよう、という話になりパーティはこれでお開きとなった。
電車の時間もあり、私と深月はすぐに里菜の家を出て駅へと向かう。


「楽しかったね!」
「あ、うん」
「しっかし本当にお似合いだなあ……里菜と、えっと……」
「……尚人?」
「そうそ……なんで名前知ってるの!?」


トイレに行ったときに聞いた、と答えると深月はさらに驚いた様子で私を見た。


「ええ!? 尚人くんと話したの!?」
「え、うん……それがどうかした?」
「どうも何も、尚人くんって本当に人前で話さないんだよ!? なんで深鶴が話せたの!? 私が話しかけても「ん」しか言わなかったのに!!」
「知らないよ……気まぐれじゃない?」


案の定、ちゃんと深月は尚人に話しかけていたらしい。
ちゃんと名乗ったはずだと言うが、あの時尚人は深月の名前を覚えていなかった。
一体何故だろう……。


「あーあー……もうちょっと背が低い可愛い女の子になれたらなーー!」
「やめてよ、そしたら私までそんな風になっちゃうじゃん」
「深鶴だって可愛い方がいいよ! 双子で可愛くなろうよー!」
「ぜっったい嫌」


すでに生まれ持った運命をねじ曲げるな、とつっこむとさすがの深月もがっくり肩を落とした。
少し言い過ぎただろうか、と反省していると、目的地の駅前に到着した。
ド田舎の、かろうじて一人駅員がいるような廃れた駅の待合室に入る。
深月はいつの間にか元気を取り戻し、「深鶴の分も買ってくるね!」と切符を買いに行ってしまった。

しかたなく待合室の椅子に腰掛ける。
ふと隣を見ると、誰かが座っていた。


「……えっ」
「……深鶴?」


顔を上げると、そこに座っていたのはもっと先に帰ったはずの尚人だった。
向こうも若干驚いたような様子を見せる。


「いきなり呼び捨て……っじゃなくて、アンタ先に帰ったんじゃ無かったの?」
「いや……帰る方向にいく列車に乗り遅れて……」
「乗り遅れって言ったって三時くらいに帰ったら列車ギリギリ三本あるじゃん。なんで乗ってないの?」
「……一本は普通に逃して……もう一本は待ってるうちにぼーっとしてて通過して……今3本目待ってるとこ」
「……なるほど」


どっちの方へ行くのかと聞くと、どうやら私と同じ方向らしい。
乗り換えずに途中の駅で降りるんだ、と何故か説明してくれた。
ちょうど深月が切符を買い終え、戻ってくるなり尚人を見て動揺していたようだった。
……ところが。


「いやーー正直さあ、めんっどくさいんだよねー! 恋は自分で勝ち取りに行けよ~! 全くもう!」
「え、深月本当は行きたくなかったの?」
「なわけないじゃん! 友達の誕生日なんだから祝うには祝うよ? けどさあ……本来の目的ってのに私もなんとなあくは分かってたんだよ、だからわざとはやし立てたりしてたけど!」
「……」


ホームで列車を待ち始めた頃には、深月は既に尚人のことなどどうでもいいと言わんばかりに今日の誕生日会の愚痴を漏らしていた。
分かる、と私は頷いていたが、当の尚人は相づちも打たずに黙って私達の方を向いているだけ。


「まあその、尚人くんもいろいろごめんね? 里菜のために気を遣わせちゃって」
「……別に」
「里菜すぐ好きな人変わるはずだからさ、それまで! ね!」
「好きな人出来る度に友達にまで迷惑掛けてんのあの人……」


そうこうしているうちに、列車のアナウンスが入り、私を含めた三人は慌てて乗車した。
トイレであった出来事が嘘だったかのように、尚人は喋りまくる深月と相手をする私を終始見つめては、外を眺めている。

……あれは何だったんだろう? なんとなく、そう思わずにはいられなかった。
< 12 / 32 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop