戸惑う暇もないくらい
仲直りのあと二人で寝室のベッドに入る。
那智に言っておかなければならないことがあった。

「那智」
「ん?」
「あのね、今日喫茶店にいたのは、異動の話を聞いたの」
「…異動?」

那智の声のトーンに慌てて誤解を解こうと目を合わせる。

「私じゃない。…ほんとは、私が異動かと思ってたんだけど、マネージャーが変わるみたい。それで、那智と離れなくていいんだって思ったらほっとして…人前で泣くなんて思わなかった」
「葉月…」

隣に並んだ那智が私の身体にしがみつくように抱き締めた。

「ごめん、悩んでたの気付けなくて。俺、ほんと余裕なくてカッコ悪い」
「そんなことない…」

さらりと肩にくっつく那智の頭を左手で撫でる。

「それでね…今のマネージャーと交代で、藤島さんが次のマネージャーになるの」

そう言うと引っ付いていた身体がぴくりと跳ねた。
那智の反応を伺うように見ているも顔を上げる気配はない。
また不機嫌になったかと言葉に迷っていると、肩口からくぐもった声が聞こえた。

「仕事は我慢する…でも絶対触らせないで」

拗ねたような声に胸がきゅうっとなり、思わず口元が緩んでしまうが手で押さえて我慢した。

「うん。分かった」
「それから、プライベートで会うのもだめ」
「うん…」
「それから…葉月からキスして」
「え?」

ごそごそと動いているかと思うと那智の顔がすぐ目の前に現れた。
口元をきゅっと結んだ表情は冗談ではなく本気で言っているらしい。

至近距離で那智に見つめられ、顔に熱が集まってくるが、那智が引く気配はない。

「今日だけ…だから」
「………うん」

明らかに不満そうな返事をしたあと那智は目を閉じた。
そっと那智の頬に手を触れて唇を触れるだけのキスをした。
離れようとしたとき、髪の下に回った左手が頭を引き寄せ、唇を割って那智の柔らかい舌が侵入する。

「んん…っ」

激しさはないものの、まるで口の中を愛撫するようなゆっくりとした動きが余計にいやらしく感じてぴくりと身体が反応してしまう。

何度も何度も食べられそうに唇を吸われ、その度に鼻にかかった声が漏れ出る。

「葉月…もっかいしていい?」
「は…っもうできない…っん」

身体は重いのに那智の手はせっかく着直した夜着の中に忍び込む。
すでに二回の行為で敏感になった身体はその気はないのに素肌に触れられる度に反応する。

「葉月…おねがい、もっと葉月が欲しい…」
「あぁ…っ」

耳元で囁かれたあと、中に舌を差し入れられぞくりと身体が震えた。

「葉月…いい?優しくする」

その目にはすでに欲が灯っており、真上に覆い被さられて広げた胸元に唇が触れた。
そこから上目遣いに見上げられ、私の返事を待っている。

こんなの、抵抗できるわけない。

こくりと頷くと三度目の熱に浮かされ、いつの間にか意識を手放していた。

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