西城家の花






与一に指摘され、初めて自分が涙を流していると気付いた美桜は、どうにかして止めようとするも溢れ出てくる涙が止まる気配はない





どうして止まらないのか、このままではまた迷惑をかけてしまう





しかし、どうやっても止まらなかったのだ





先ほどまで楽しく談笑していた父と火野家の当主までもが異変に気付き、美桜に視線を向けている





こんな公の場で泣いてしまう自分の不甲斐なさでますます涙が溢れ出てくる





すると、誰かがポンッと美桜の背中を優しく叩いた






「申し訳ありません、火野家のみなさま。美桜はこの歳になって花粉症を発症してしまい、最近はところかまわず涙を流してしまうのです。このままじゃ見苦しいところをお見せしてしまうので、収まるまで席を外させても構いませんでしょうか?」






母の咄嗟の嘘に、火野家の奥方は可哀そうにまぁと声を漏らした






「もちろんですわ。花粉症はつらいですものね。たくさん部屋はありますので、ゆっくりと休まれてくださいませ」





「恐れ入ります。さぁ行くわよ、美桜」






母に諭され、その場で立ち上がると、美桜は涙で声が出ないので深々と頭を下げ、母とともに食事会会場から退出した





一瞬、与一の戸惑った表情が目に入ってしまい、罪悪感で胸を少し痛めたので、後日改めて謝罪しようと部屋を出ながら美桜は思った





さて、きっと今から説教が始まるのだろうと、覚悟を決めた美桜は無言で前を行く母の後を追った





しかし、会場から大分離れたところまで来ても、母は歩みを止めない





いったいどこまで連れていかれるのだろうと、首を傾げていると、突然母が美桜の方に振り向いた





ついに来たと目を瞑り、じっと母の怒りが飛んでくるのを待っていたが、いつまで経っても怒声は聞こえてこない





違和感を感じ、そーっとまぶたを開けると、そこにはいつになく真剣な表情で美桜を見据える母の姿があった






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