西城家の花
花を彩るのに大切なもの






美桜と大志が今度こそ、正式に婚約を結んでから数日後に騒動は起こった






*
*





「いやぁー、それにしても本当によかった。先日の大志の落ち込みっぷりは酷かったからなー」





室内履きから外履きへと履き替える大志の横で敦司は腕を組みながらうんうんと一人で勝手に自分の言葉に対して頷いていた





大志との婚約が復活するとともに美桜が放課後に大志の学校に現れた時、殆どの生徒が心の底から安堵した





何度も言うが、美桜との婚約を破棄してからの大志は本当にどこの誰から見てもわかるような酷い落ち込みようだったのである





たとえ教師に怒られても、同級生にからかわれても、うんともすんとも反応しない大志が美桜という少女が放課後、学校に訪れなくなった途端に今まで見たことのないような暗い雰囲気を身に纏わせていたものだから事情をほとんど知らない人でも





あっ、こいつ失恋したんだな…





と察してしまっていたのだ





しかし、あれからなんやかんやあって美桜が戻ってきて、大志の調子も元通りになったので、これでまた平穏な日常が送られると誰しもが思っていた






「というか、お前かなり鈍いのよな。美桜ちゃんは中々わかりやすい子なんだけどな…」






未だにぺらぺらと話し続ける敦司を横目に大志は早足で愛しの婚約者である美桜が待つ校門前へと向かった





本来なら大志が美桜の学校へと迎えに行かなければならないのだが、大志が進学クラスのため授業が終わるのが少し遅い





それならばその時間に美桜が大志の学校まで訪れ、授業が終わったらすぐ会えると力説され、以前のような感じで落ち着いた





それでも美桜を待たせているということに申し訳なさを感じている大志が校門まであと少しというところで見慣れた制服姿の美桜の姿を視界に捉えた






「み…」





「もう帰ってください。ここにずっといられても迷惑!!」






大志が美桜の名を口にしようとすると同時に、美桜の苛ついた声が耳に入った






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