西城家の花
まったくあの子ったらとぶーと頬を膨らませている美桜を見て、大志はふふと笑ってしまった
「申し訳ありません、大志様…。与一は決して悪い人ではないのですけど、少し誤解されやすい性格の持ち主でして…」
「いや、少々驚かされたか、中々楽しかった。それに、彼は美桜のことが心配で乗り込んで来たんだ。よい幼なじみ殿ではないか」
「えぇ!?そんなはずありませんわ!与一は世界で一番わたしのことを嫌ってますもの。というか、大志様、誤解なさらないでくださいね。わたしと与一はただの幼なじみでそれ以下はあったとしても、それ以上になることは決してございませんので、ご安心を!!わたしの心はいつまでも大志様だけのものですわ!!」
恥ずかしげもなくそんな言葉を言ってのける美桜にうわぁ…と若干引き気味になりながらも、結局本質的なところはしっかりと理解していた大志はやはり侮れん男だなと敦司は改めて大志のすごさを実感した
しかも普通婚約者の幼なじみが彼女を賭けて決闘を申し込んできたら、恋敵が現れたと少しは取り乱すものの、終始動じずに淡々と事を進めていくのを見るあたり、大志は相当肝が据わっている…というかただ恐ろしく鈍いだけなのだろうか
まぁとりあえず変に事を騒ぎ立てずに済んだことに安堵した敦司は、さっそく二人の世界に入り込もうとしている大志と美桜に別れを告げると、すっかりオレンジ色になった空を見上げながら家路についた
帰り道の途中、敦司は美桜の幼なじみで、今日の騒動の勃発者である与一のことを思い出していた
幼なじみである美桜を心配して、彼女の婚約者である大志を見定めるために来たことというのはまだよしとして、やり方があまりにも強引すぎた
自分ならもっとうまいやり方をするのになぁーとやはり与一は少々頭が弱いことを再認識していると、前方の方になにやら見慣れた背中が見えてきた
「くそぉー…。携帯は車に置いてきたしな…。財布もないし…」
道のど真ん中でぶつぶつとなにか呟いている男は紛れもなく先ほどまで威勢よく大志に突っかかっていた与一本人で、今はなんだかうな垂れていた
「おーい、与一くーん」
「…げぇ?!お前は…」
名前を呼ばれたので振り向いた与一だったが、それが敦司だと気付いた途端、警戒するように一歩後退りをした
「こんなところでどうしたの?あっ、もしかしてやっぱり美桜ちゃんの言った通り帰り道がわからなくなったとか」
「ぐっ…。そ、そんなわけない!!少し散歩をしていただけだ!!」
どうやら与一はかなーり意地っ張りな性格らしく、どう見ても道に迷っているのにそうではないと主張してくる
めんどくさいやつだなと思いながらも、そういうめんどくさいやつを放っておけないお節介焼きの敦司はやれやれと呆れながらも、助けてしまう