西城家の花





自業自得だからと我慢していたが、さすがに家に戻れないかもと不安になると、目頭がじわぁと熱くなるのが感じる





思い切ってこの雨の中を傘を差して進むということも考えたが、豪雨の上に風も強いのですぐにびしょ濡れに恐れがあるので中々実現できない





もういっそのこと濡れてもいいから外に飛び出してしまおうとも思ったが、美桜は布が体に張り付く感触が一番苦手で、しかもこの豪雨の中を走り続けるとなると確実に体が冷え、次の日から高熱コース確定だ





そしたら暫くの間、部屋から出られなくなり、大志にも会えなくなってしまう





そんなことになったら熱ではなく、大志不足で美桜が死んでしまう恐れがある





大袈裟だが、そもそも今日、美桜が大志に会いに行こうとしなければそんなことにもならないのだが、もうなにもかも遅すぎたのであった





もう帰りたい…





長いこと雨の中を佇んでいたせいか体が冷えてきて、足も痺れてきて、もう我慢できず、美桜はゆっくりとその場で座り込むと、顔を膝の上に埋めた





大志様…





決してその場に現れるはずのない愛しい人の姿を思い浮かべ、余計虚しくなり、惨めな気持ちになりながら鼻をすすっていると豪雨のせいで殆ど何も聞こえないのだが、誰かの足音が近づいてくるのがわかった





こんな人気がないところで人が通ってくるなんてまたとないチャンスと顔を上げると、丁度その時、前を通りかかった人物と目が合い、美桜は目を丸くさせた






「………大志様」






今にも消えそうな声で目の前で同じように美桜の姿に目を丸くした大志が慌てて駆け寄ってきた






「ど、どうしてこんなところに美桜が…。というか蹲ったりなんかしてどこか具合が悪いのか?」





「……ふぇ…」






絶対に現れるはずのない愛しの人が目の前に現れたことで、一気に緊張感が解されていき、さっきまで我慢していた涙が美桜の頬に止めどなく伝っていき、子供のようにわんわんと泣き出してしまった





そんな美桜に驚いた大志は大慌てで美桜を慰めようとするも、先ほどまで豪雨の中、傘もなしに走っていたせいで体全体がびしょ濡れになっていたため美桜に触れることも出来ず、美桜が泣き止むまで隣に座りこむことしか出来なかった






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