西城家の花





ちょうどいい機会なので、大志がたまにやってくれる頭を撫でる行為を試しにやってみようと美桜はそっと大志の髪に触れる





風呂上りで少しだけ湿っている大志の髪は美桜のそれよりも太くて、毛が一本一本主張しているので、肌触りがしっかりしている





猫みたいにふわふわしている美桜の髪の質とは違う感触を楽しむように大志の髪に指を巡らせていると、大志がくすぐったそうに頭を動かした






「…楽しんでいるだろう」





「そんなことありませんわ」






そう主張するも美桜自身、自分の顔がにやけていると自覚している





美桜の表情を見て、大志は諦めたように目をつむると、またこくりこくりと眠たそうに頭を微かに上下に動かした






「もう寝てくださいまし。大志様が目を覚ますまで、わたしはここを離れませんので」






言葉通り、たとえ流水からのお迎えが来ようとも美桜はこの体制を崩すつもりは微塵もなかった





幸い、幼いころから正座で長時間説教を食らっていたため、足が痺れる心配も当分ない





美桜の言葉がきっかけだったのか、目をつむった大志は瞬く間に眠りにつき、規則正しい寝息が綺麗な唇から聞こえてきた





初めて見る大志の寝顔に見惚れながらも、好奇心を隠し切れない美桜は大志を起こさぬようにそっと頬に触れる





想像以上に滑らかな肌触りで一瞬驚いたが、やはり美桜の頬とは違い、ふにふにという柔らかさはない





角張ったフェイスラインをなぞるように触ると、たまにざらざらとした触感が指に伝わってくる





いつもは綺麗に剃り揃えていているからまったくわからないけれど、そろそろ生えるころかなと美桜はこの時間帯に剃刀を持って洗面所に向かう父の姿を思い浮かべていた





フェイスラインがくっきりと見える今の感じも大変好ましいのだが、無精髭が生えた大志もそれはそれで確実に素晴らしいものなのでぜひ見てみたい






様々な妄想にふけながら、好きなだけ大志の顔を眺め、触れられる最高に幸せなこの時間が一生続けばいいのにと美桜は願うのであった









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