スイーツ王子と恋するレシピ
スイーツ王子は完璧王子
ああスイーツ王子さま

あなたはどうしてそんなに

毒を吐くのですか?


「おはようごさいます!」

私は元気よく「シャルロット」の扉を開けた。
甘い香りが優しく私を刺激する。

恵斗さんはもうすでに厨房でもくもくとケーキを作っていた。

「今朝もちゃんと時間通りに来たな。1分でも遅刻したら即クビだからな!」

「は、はい!」

わかってるっつーの! いちいちうるさいな…
 こんな朝を何回迎えても、スイーツと王子とのギャップに慣れることはない。

私は着替えて、ケーキ作りを手伝いはじめた。

あ……。

恵斗さんの早くて適格な手の動きが目に入り、あまりにもそれが美しくて、思わず目が離せなかった。

わあっ。

「なんだ?」

ヤバい! 見とれてたこと、恵斗さんが気付いた! でも……。

「す、すみません! 仕事はちゃんとします! でも、あの、少しだけ、見ててもいいですか!」

勇気を出して言ってみた。怒られるかな? 

「いーけど、サボるなよ!」

やった!!

私は仕事をしながら、時々恵斗さんの手に目をやった。

このスピードでこの技術。やっぱりこの人は天才だ。
私はその美しい動きに感動さえ覚えて、なぜだか涙がこぼれそうだった。

「なんだ? お前。きたねーな、鼻水だすなよ!」

えーん、鼻水なんて出してません!

恵斗さんの手から生まれる美しいスイーツたち。恵斗さんはそれらを愛おしそうに見つめる。そのキレイな瞳で。
私はため息と共に、あこがれと嫉妬が入り混じった複雑な感情を吐き出した。

ここで修行して、私も恵斗さんが作るような完璧なスイーツを作れるようになりたい。
すぐには無理でも、頑張るんだ。毎日、毎日、恵斗さんの技術を見て、頭に叩き込んで。諦めなければきっと、私だって。

でも、心のどこかで諦めてる自分がいる。この人に近づきたい。でも、超えることはできない。

はっ! やだ、私ったら。何考えてるんだろう。恵斗さんに嫉妬だなんて、厚かましいにもほどがある。
私はブルブルと頭を振って、気持ちを切り替えた。集中しなくちゃ。

オープンまであと30分。今日はまだ行列はできていないようだ。土日は1時間前から並んでいるのだけど。
お店に並べるスイーツたちがどんどん出来上がり、ショーケースに並べていく。
 花が咲いたようにみるみると明るくふんわりと甘い香りでいっぱいになっていく。
 忙しいけど、この時間が一番好きだ。

カランコロンと扉の開く音がした。女性の姿が見えた。

「申訳ありません。オープンは10時からなんです」
そう言って、私はドキッとした。
 女の私から見ても、はっと息をのんで見つめてしまうほど、キレイで上品な女性だった。
 歳は30歳前後だろうか。黒く長い髪に白い肌。落ち着いた空気。スイーツに例えると、甘さを抑えたブランデーケーキ。

「あ!」

オーナーが女性を見て驚きの声をあげた。

「蜜子さん!」

蜜子さん? オーナーのお知り合い?
そして恵斗さんが出来立てのショートケーキをトレイいっぱいに乗せて持ってきた。

「恵斗」

女性が口を開いた。

「久しぶりね」

恵斗さんは女性の声を聴き、顔を見るなり驚いてトレイを床に落としてしまった。


どんがらがっしゃん!!


うそ! 恵斗さんが動揺してる!?

「大丈夫?」

女性は心配そうに恵斗さんに声をかけた。

「……」

恵斗さんは女性を無視して、床に散らばった哀れなケーキたちを拾い片づけ始めた。私も慌てて恵斗さんを手伝った。

気まずい空気が店内を包む。オーナーが気を遣い、女性に語りかけた。

「お久しぶりですね。お元気でしたか」

 オーナーの言葉に応えるように蜜子さんは控えめに微笑みんだ。

「はい。ご無沙汰していて…。実は、今日は、ケーキを注文したくて」

「ケーキを、ですか?」

「はい。ウエディングケーキを」

 ウエディングケーキ

 その言葉を聴いて恵斗さんの身体が一瞬、ぶるっと揺れた。


恵斗さん、彼女は一体、誰?



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