貴方が手をつないでくれるなら
・エピローグ


「あ…ただいま、お兄ちゃん」

気まずい…。というか、顔を合わせるのが…何だか恥ずかしい。

「…ん、おかえり。もうすぐ出来る」

「え?あ、うん。…ちょっと、先に着替えてくるね」

「ああ。パン、焼いとくぞ?」

「うん」


…はぁぁ。明らかに…違う。柏木さんのところに行けとは言ったが、…違う。日向、女の顔になって帰って来た。…はぁ、…あぁ。今朝もちゃんと送って来たようだし。…別に…覗き見してた訳じゃない。たまたまだ。鍵は持たせてあったけど、一応開けておこうかと思ったんだ。
そしたら、…ドアの手前でいつまで経っても…ゴニョゴニョと…長い!

はぁ、それにだ。律儀に柏木さんはまた朝メールをくれていた。

【おはようございます。妹さんとおつき合いを始める事になりました。偶然ですが、町田にも伝えました。今回は何も無かったとは言いません。男女の事なので察してください。ただ、妹さんの気持ちはまだ暫定的のようです】

と来た。察してくれ、だと?ん゙〜。そういう事か、…そういう事だよな。だがこれは、この先、つき合いは無くなるのかも知れないのか…。んー。


「お兄ちゃん」

「ぅおっ…何だ。…驚かすな」

…日向、…どうした。…どうしたじゃないか。恥ずかしいのか。

「…ごめんね、ちゃんと連絡しないで外泊なんかして…」

その事か。…これはもう駄目だな。させてはいけない。日向の為、否…。

「解ってたからいいよ」

「うん…。ごめんね」

もう、止めさせた方がいいな。…俺の為だ。

「日向。もう、俺に抱き着くな。俺は親父じゃないんだぞ?」

「え?…お兄ちゃん…」

後ろからピッタリと身体を貼り付かせ、回されていた腕。その腕をゆっくり解き、振り返って顔を覗き込んだ。

「日向は俺に親父を求めてるだろ?…今日でそれも終わりだ。…子供じゃないんだ、日向は柏木さんとつき合うようになったんだからな」

「お兄ちゃん…」

「お兄ちゃんの役目は卒業だ。…甘えたい時は、柏木さんに甘えさせて貰え、…いいな?」

…お兄ちゃん。……お兄ちゃん…。

「解った…うん、…解った」

「ん。ご飯にしよう」

…これでいい。…これで最後だ。ギュッと抱いて頭を撫でた。


「…あのね。ちょっとだけ、柏木さんと話したの。もしもの、まだ全然解らない話なんだけど」

「うん?」

「もしも、柏木さんと一緒になる事になったら…って、例え話」

「ん…」

「柏木さんは、私はここでずっと暮らすようにって、言うの」

…は?

「柏木さんは官舎で暮らす事はしないし、部屋に帰る日より、帰れない日の方が多いから。留守で私を一人にさせてしまうくらいなら、今の生活を変えずにここで暮らしてくれた方が心配無いからって。でも…まだあるか無いか解らない話よ?」

「うん。それで帰れる日はここに帰って来るって事か?」

「そうだと思うけど。あ、でも、今の部屋なのかも知れない。そこまで具体的に聞いては見なかったから。だって、解らない先の…仮定の話だから」

いや、一緒に居るならほぼそうなるだろう。『何かあったら俺が居るから』て事だから。

「まあ、これからが肝心な話だな。ずっとつき合いが続けていけそうならな」

「…うん」

…はぁ、…嬉しいような、悲しいような…本当、複雑で辛いなぁ…。

< 106 / 108 >

この作品をシェア

pagetop