貴方が手をつないでくれるなら
「はぁ、…はぁ、…はぁ眞壁さん…」
「柏木さん?!」
後ろからの声に驚いてしまった。
「はぁ…、はぁ、は、い。…こん、にちは」
「こんにちは。大丈夫ですか?あ、お茶。はい、お茶どうぞ。ここ、座ってください」
荷物を除けてベンチを空け、カップを置いた。
走って来たようだ。膝に手を置き、肩で息をしていた。
「あ゙ー駄目だ…。全然走れ無い。はぁ……頂きます」
やっとベンチの端に腰を下ろした。カップを取るとゴクっと飲む音がした。
「無理しないでくださいね。他のところを痛めたら大変です」
「無理じゃないけど、走るくらいの無理はします。はぁ。じゃなきゃ、少しも会えないですから。はあ…生き返った、ご馳走様でした」
柏木さん…。置かれた小さいカップは綺麗に空になっていた。
「驚かないで聞いて欲しいんです。あの…」
「はい?」
驚かないでなんて前置き…何だろう…。
「…あの、…、時間があったら…俺と、どこか行くのは嫌ですか?」
「え?…ぇえ゙っ?…いきなり」
無意識に自分の身体を抱きしめた。…時間があるかって。
「あ、いや、違う違う、そうじゃないです、誤解です、それは違います。そうじゃない。そんな嫌らしい誘いでは無く、…はぁ、これだから俺は…」
まだそんな印象だって事だよな、俺は…はぁ。
「え?」
「どこか行きませんか?」
「え゙っ」
まだうっかり身体を抱いたままだった。慌てて腕を戻した。
「あ…、だから、妙な誘いでは無くて…、休みの日に、急に誘っても、出掛けられますか?仕事の都合ってつきますか?動物は好きですか?魚は?」
「え、あの…それ、どう…」
「動物が好きなんですか?じゃあ動物園がいいのですか?では、俺が休みが取れたら、まだいつになるか解りませんが、動物園に行きましょう。あ、じゃあ、時間無いんで行きます」
え?はい?
「あ、柏木さん…」
あー、行っちゃった…。今のは何。一体どういうつもりで…。いきなり、今日はどうしたんだろう。
…え?確か動物園て…動物園に行くの?…柏木さんが?
あっ。私が、どうしたんですかって言い掛けた言葉を勘違いして…、早とちりさせてしまったんだ。どうしよう。
好きなモノを聞いてくれたつもりなのに。私…。
柏木さんは、動物園って行きたいのかな…。無理してだよね、きっと。
でも、何故、急にこんな。
「何かあったのか?エロ男」
「あ?別にぃ…あ、何だと?」
「ん?エロ男?…ニヤけてるぞ顔が」
「んな訳あるか、何言ってる…あっ、…くそー」
「んー、どうした?」
「…何でも無い」
押し付けるように言うだけ言って、決めつけて…、返事は貰って無い気がする。…そうだよ、…しまった。
「…はぁ」
「忙しい奴だな。もう弱ってんのか?」
「…煩い、一々干渉するな」
「へい、へい」
こうなったら実際確実に休みが取れてからにするか。ちっとも前進してる気がしないな。
「心配するな、都合が悪くなったら俺が代わりに行ってやるから」
「…何の事だ」
「デート?フ。言わなくったって解る」
「はぁあ?……全く…。どっちの代わりになるつもりだ…」
「どっちの代わりにもなれるぞ?眞壁さんに断られたら俺がお前と。お前が行けなくなったら俺が眞壁さんと」
「…断る。どっちも…断る」
「んー、けち~」
…。
何でもお見通し。勘の鋭い奴だ。