俺のバンドのボーカルは耳が聞こえません
「……はっ?」
俺は彼女を見た。
何が嫌です、だ。
『いいから退けよ』
『嫌だって言ってるじゃないですか』
『何で嫌なんだよ』
『貴方、楽器弾けますか?』
「おい、答えになってねえじゃん」
あまりに突拍子もない質問に、俺はどうせ聞こえないのにそう漏らす。
彼女は依然、俺を見つめていた。
その目は真剣で、俺は小さなため息を吐いた後、仕方ないと、メモ帳に目をやった。
『ベースならしてるけど?』
『なら、私とバンドを組みませんか?』
「はあ?」
こいつ、頭が可笑しいんじゃないか?
『お前、耳聞こえないんじゃねえの』
『聞こえません。聞こえたこともありません』
「じゃあなんで……」
『じゃあなんで、バンドなんて組もうと思ったんだよ。てか、なんで俺?』