一之瀬さんちの家政婦君

夢の中の景色は再び姿を変えて、薄明りの灯った静かな場所だ。

和真にとって忘れようにも絶対に忘れることが出来ないその場所は、若くしてこの世を去った家政婦の葬儀場だった。

藤原 双葉は長い月日を一之瀬家の家政婦として過ごしてきたが、ある日を境にあの屋敷からも和真の前からも姿を消した。

後から聞いた話だが、彼女は進行性のガンを患っていたらしい。

その頃の和真はまだ小学生だったが、彼女の死をメイドたちの噂話で偶然耳にして、執事だった杉下(すぎした)に無理を言って、葬儀場まで車を出させたのだ。

和真はたった一人で葬儀会場に足を踏み入れる。

しかし、親族だけでしめやかに行われている葬儀の邪魔はできず、時折漏れ聞こえてくる経を廊下の片隅で聞いていた。
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