甘い言葉の甘い罠
なんのことやら


それなのに。


その月曜。
出勤するなり、課長から頼まれた。


「一緒に行く予定だった鴻池(コウノイケ)さんがインフルエンザになって、代打がいないから、彼と一緒に挨拶だけ顔を出してほしいんだ。僕も行くけどね」


鴻池さんは、この前同伴予定だった先輩だ。ことごとく縁がない。というかツイてない。


課長は昇進して海外店舗の担当になるらしい。引き継ぎ最後の挨拶も兼ねての仕事と言うわけだ。


そして、彼、と言われたのは、時期課長候補の工藤(クドウ)さんだ。


長身でイケメンの、笑顔の爽やかな大人の男性で、女子社員の憧れではある。


「…ああ、はあ、まあ…」


「何か不都合でも??」


「い、いえ!!喜んで!!」


顔の前でぶんぶんと手を振る。


―――行きたくないなあ。
顔合わせるのイヤだ。
平静でいられるだろうか。
いや、いなくては。


松嶋さんも、きっと寝たら忘れてる。
彼女さんだっているんだし。


私はもう、当分いいや。
恋愛モードにはならない。


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