心ときみの物語


人と出逢い、そして喜びも悲しみも学び、時には切りたくなるようなそんな縁が生まれたとしても。

やっぱりひとりでは生きていけないから、どうしたって求め合う。

例えそれが色褪せしまっても、ずっと心に残ってしまう大切なものこそ、切ってはいけない結びの縁なんだと俺は思う。

なにが正しくて、なにが不正解か。それは誰にも分からない。それは神様でさえも、想像し得ないことが起きたりする。

それが俺たちのいる、この世界。


「とりあえずお前もたまには休め」

俺は中に入る寸前で小鞠に言った。

「はーい」

明るい返事が聞こえてきたあと、小鞠は巫女の姿から〝狛犬〟となり、古びたこの拝殿の守り犬に戻った。

さて、俺も次の依頼者が来るまでのんびりするか。


立ち止まってしまうほどの悲しみが訪れたとしても、それでもこの世界で求め続けよう。

絶対に壊れない、尊くて愛しい人との縁を。

そして、きっとまたどこかで浮かない顔をした人が高嶺神社の鳥居をくぐり、そしてこう言うのだろう。


「あの、裏絵馬ってありますか?」と。


――【心ときみの物語】
< 144 / 171 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop