視線から始まる




「瀬那ちゃん」




 計ったように美玲から声が掛かると、ほっとしたように瀬那は立ち上がる。




「呼ばれてるから行くわ」

「えっ、瀬那ちゃん」



 呼び止める声がするが、もうこれ以上彼女と会話したくない瀬那は構わず美玲の下に行く。




「ありがとう」

「最近しつこいわね、あの女。
 瀬那ちゃんが鬱陶しがってるの分からないのかしら。
 もう近付くなってはっきり言っちゃう?」

「うーん、でもあんまり強く言って泣かれでもしたらね……。
 自分の彼女が泣かされたってなったら、一条院さんが出てくるでしょう?」




 美玲は嫌いな相手には容赦がないので、確実に泣かすまでいきそうだ。


 一条院枢が出てくるのだけは絶対に避けたい。
 いくら美玲でも枢相手には対抗できないだろう。
 瀬那も頼まれたって嫌だ。



「えー、違うよ瀬那ちゃん。
 新庄さんは一条院様の彼女じゃないって」

「そうなの?
 だって彼女には名前呼ばせてるから、てっきり……」




 女子には名前を呼ばせていない枢が、唯一名前を呼ぶことを容認しているのだから、それだけ愛菜は枢の特別な人なのだろうと思ったのだが、美玲によると違うようだ。






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