視線から始まる
「美玲だったら慣れてるのかな。なんたってお嬢様だし。
……あっ、美玲にパーティー出席するのか聞き忘れてた。
一条院さん、美玲が出席するか知ってる?
美玲っていっても分からないか、高坂美玲って服飾ブランドの高坂のお嬢様なんだけど」
枢に視線を向けると、彼は瀬那の問いに答えるでもなく頬杖をつきながらじっと瀬那を見ていた。
「えっと……何?」
「今日はよく喋るな」
確かに今日はよく喋っている気がする。
いや、今日はというより、こんなに話をしたのは初めてかもしれない。
いつも一言二言ぐらいしか互いに話さないから。
「ごめん、うるさかった?」
「いや」
少し調子に乗って喋りすぎたかもしれない。
機嫌が悪くなっていないかと顔を窺ったが、特に機嫌が悪そうでもなく、むしろ優しさの感じる眼差しだったのでほっとする。
「高坂の社長は招待客の中に入っている。
おそらく娘も連れて来るだろう。
俺が出席するパーティーでは、年頃の娘がいる客は必ず連れて来るからな」
「どうして?」
「どいつも、一条院家と縁続きになりたいからな」
娘を連れて行ってそこで見初められれば玉の輿だ。
それはもう一縷の望みをかけて、目の色を変えて擦り寄ってくるのだろう。
「なるほど。それはまた気の毒な」
肉食獣のような目の女性達に狙われている枢の姿が頭に浮かび、クスクスと笑う。