副社長には内緒!〜 Secret Love 〜
「全然大丈夫だよ。無事に帰れたんだし気にしないで」

ふわりと笑った莉乃を心配そうに誠は見下ろすと、地下駐車場に止めてあった車の助手席を開けると、莉乃を乗るように促して、自分も車に乗り込んだ。

「高級車緊張する。副社長なんだね」
莉乃はそういいながら、ふかふかの助手席に身体を預けるとシートベルトを締めた。


「なんだと思ってたんだ?」


「今日は途中から忘れてたから」
少し寂しい感情に襲われて、声が小さくなった自分自身に驚いて、ごまかすための言葉を必死に探したが見つからず口を噤んだ。


「じゃあ、今日は忘れてろ」
表情を変えることなく言った誠に驚きつつも、「……あと、1時間ないね」それだけ言うと、二人は無言になった。


そんな沈黙を破ったのは莉乃だった。

「明日からは、ちゃんといつも通りの秘書でいるから」
莉乃の言葉の真意を聞く事も、どう言葉をかけていいかもわからず誠は言葉を発しなかった。

(この人には、彼女もいるし、誰にも本気にはならない人)

それは、ずっと側で見てきた莉乃だからこそわかる事だった。

そっと莉乃は誠から視線を逸らし、窓の外に目を向けると、自分の感情の変化に気づかないふりをして、何度となく戒めるように好きになってはダメ……と莉乃は言い聞かせた。
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