僕と家族と逃げ込み家
「叔父さん、聞いてよ。母さんたちは最低だ! 僕を置いて旅行に行くんだって」

そりゃあ、高校生にもなって親に付いて旅行なんか、と思うよ。でも……違うんだ。ひと言でも誘ってくれたら、こんなに腹は立たなかったと思うんだ。

息せき切って店に飛び込んだはいいが、「……ん?」と時計を見る。午後三時。

どうして客が一人もいないんだ?
不思議に思ってドアの方を見ると、まだ営業時間中なのに『close』のプレート。

そして、ギョッとする。カウンター席に項垂れた叔父がいたからだ。
叔父の周りに黒雲が立ちこめて見えるのは、僕の目の錯覚だろうか?

「――ああ、そうだな。俺を置いて行くなんて……トヨ子ちゃん」

もしかしたら、僕より先に旅行のことを知っていた?

あーあ、僕より落ち込んでいるよ。
本当、この人、トヨ子ちゃんに対してだけ、メンタル弱くなるんだよなぁ。

「お土産いっぱい買ってくるって」

愚痴を聞いてもらうつもりが慰める側になるなんて……。

「ねぇ……もういっそのことトヨ子ちゃんに告白したら?」

ゆっくり顔を上げ、叔父は力なく首を左右に振る。

「あのトヨ子ちゃんが俺の告白を素直に信じると思うか?」

信じないだろうな。

トヨ子ちゃんは年中恋をしているが、どれもこれも恋に恋しているだけの夢見る夢子さんだ。そんなトヨ子ちゃんが、『ふざけた不良ヤロー』と思っている叔父を相手にするはずがない。

前途多難。その一言に尽きる。
叔父さん、ご愁傷様ですと憐れみの目を向ける。
< 51 / 198 >

この作品をシェア

pagetop